都立高校入試の全体像(種類・日程・どう決まるか)
入試の話は、いつも通知表の前で止まる
三者面談の前の廊下で、保護者の方が持ってきた紙を見せながら「これ、どこから読めばいいんでしょう」と聞いてこられたことがあります。都立高校の入試要綱を印刷したもので、表がいくつも並び、日程と点数と選抜の種類が同じ紙に載っている。読めないことはないのに、順番がわからない。だから最初の一歩で止まってしまう。これはよくある場面です。
都立入試は、仕組みさえ順番どおりに押さえれば、それほど複雑ではありません。この記事では、種類、日程、そして「どう決まるか」の3つに分けて、令和9年度の実施要綱と都教委の公表資料に沿って整理します。武蔵野市・三鷹市・小金井市・西東京市から都立に進むご家庭が、最初にどこを見ればよいかの地図として使ってください。
選抜の種類は、大きく2つに分かれる
都立高校の入学者選抜は、実施要綱の上では次の2つに分かれます(都教委の公表資料より)。
- 推薦に基づく選抜(文化・スポーツ等特別推薦を含む)
- 学力検査に基づく選抜(第一次募集・分割募集・第二次募集)
推薦に基づく選抜は、学力検査ではなく学校ごとの検査で選ぶ枠です。検査の中身は学校ごとに違い、個人面接・集団討論・小論文または作文・実技などを組み合わせて実施されます。どの学校が何を実施するかは都教委が一覧で公表しています。つまり「推薦は面接だけ」と決めつけず、志望校の欄を一覧で確かめる必要があります。
学力検査に基づく選抜は、さらに第一次募集・分割募集・第二次募集に分かれます。分割募集のうち分割前期は、第一次募集と同じ日程で行われます(実施要綱より)。第二次募集は、第一次募集で定員に満たなかった学校・学科が対象になります。すべての学校に第二次募集があるわけではありません。
推薦と一般は「別の入試」ではなく「同じ年の二つの入口」
ここで一度、言葉の整理をしておきます。保護者の方がよく使う「推薦」と「一般」は、実施要綱の言葉では「推薦に基づく選抜」と「学力検査に基づく選抜(第一次募集)」にあたります。別々の学校を受けるのではなく、同じ高校に対して二つの入口がある、というイメージが近いでしょう。
推薦の合格発表は2月2日です。推薦の発表(2月2日)の後も、第一次募集の出願期間(1月29日〜2月4日)は開いています。だから推薦を受けるご家庭は、推薦の準備と一般の準備を同時に進めることになります。推薦の対策だけに集中して、一般の出願書類を1月の終わりに初めて開く、という順番にならないようにしてください。
もう一つ、文化・スポーツ等特別推薦という枠があります。これは推薦に基づく選抜の中に含まれるもので、実施する学校・学科は限られます。お子さまが部活動や文化活動で続けてきたことがある場合、志望校がこの枠を設けているかどうかを一覧で確かめておくと、選択肢の幅が変わります。
令和9年度の日程
日程は年度ごとに公表されます。令和9年度の日程は次のとおりです(都教委の公表資料より)。
| 区分 | 出願 | 検査 | 発表 |
|---|---|---|---|
| 推薦に基づく選抜 | 1月8日〜1月18日 | 1月26日(火)・27日(水) | 2月2日(火) |
| 第一次募集(分割前期) | 1月29日〜2月4日 | 2月21日(日) | 3月1日(月) |
| 追検査(インフルエンザ等) | — | 3月9日 | 3月12日 |
出願はインターネット経由で行われます。紙の願書を郵送する形ではないので、中学校の指導に沿って期間内に手続きを済ませる必要があります。推薦の検査が1月下旬、一般の学力検査が2月21日。推薦の発表が2月2日ですから、推薦の結果が出てから一般の出願期間(1月29日〜2月4日)が終わるまでの間に、気持ちを切り替える時間はほとんどありません。推薦を受けるご家庭は、一般の出願準備を並行して進めておくのが現実的です。
学力検査を病気などで受けられなかった場合の追検査が3月9日、発表が3月12日に設定されています。インフルエンザ等の感染症は2月にも流行します。当日の体調管理は、勉強と同じくらい本番の一部だと考えておくとよいでしょう。
日程を「月」に置き換えて眺める
日程表は日付の羅列に見えますが、月ごとに区切ると、ご家庭が何をする月なのかが見えてきます。
12月は、志望校の比率と推薦の実施内容を確かめる月です。出願の1か月以上前に、必要な書類と入力する情報を洗い出しておきます。中学校によっては、出願前に校内で確認する手順が入りますから、冬休みに入る前に担任の先生へ予定を聞いておくと安心です。
1月は、出願の月です。推薦は1月8日から18日、一般は1月29日から2月4日。インターネット経由の出願は、入力する項目が多く、家庭の通信環境と支払いの手続きも関わります。期間の初日に慌てて入力するのではなく、前日までに一度最後まで入力してみて、わからない項目を中学校に確認する。この順番が現実的です。
2月は、検査の月です。推薦の検査が26日と27日、一般の学力検査が21日。推薦の発表が2月2日です。2月に入ってから新しい教材を増やすより、これまで使ってきた教材を回すほうが、当日の落ち着きにつながります。
3月は、発表と追検査の月です。第一次募集の発表が3月1日、追検査が3月9日で発表が3月12日。ここまで来ると、ご家庭ができることは生活のリズムを崩さないことくらいです。
どう決まるか:1000点+20点の世界
一般入試(第一次募集・分割前期)の得点は、学力検査の得点と調査書点の合計で1000点満点です。比率が7:3の学校なら、学力検査700点・調査書300点。ここにESAT-J(東京都中学生英語スピーキングテスト)の結果が加わります。配点はA20点・B16点・C12点・D8点・E4点・F0点で、合計は1020点満点になります(都教委の公表資料より)。
つまり都立の一般入試は、1000点の土台に20点の上乗せがある形です。この20点は英語の学力検査とは別枠で加算されるので、スピーキングの評価がAなら20点がそのまま加わります。逆にFなら0点。同じ英語の力でも、評価の段階で最大20点の差がつく仕組みです。
一部の学校は、この7:3の計算と、学力検査のみの1000点(10:0)の計算を両方行い、高い方の得点を採用します。令和9年度にこの方式の対象として公表されたのは北園高校と武蔵野北高校の2校です(都教委の公表資料より)。武蔵野市・三鷹市から通える範囲の学校がここに入っている点は、志望校を考えるときに押さえておきたいところです。調査書点が伸びにくいお子さまにとっては、学力検査の得点だけで勝負できる道が用意されている、という読み方ができます。
第二次募集は6:4と10:0の計算で高い方を採用します。第一次募集とは比率が違うので、第二次募集まで視野に入れる場合は、その学校の比率を改めて確認してください。
1020点という数字の読み方
1020点満点と聞くと、1000点との違いが小さく感じられるかもしれません。20点は全体の2%弱です。しかし、この20点は「全員が同じだけ持っている点」ではありません。Aの20点からFの0点まで、最大で20点の開きがあります。1000点の勝負をしている受験生どうしの間で、20点の差はそのまま順位の差になります。
たとえば、学力検査と調査書の合計が同じ800点どうしの二人がいたとします。一人がESAT-JでA、もう一人がFなら、1020点満点では820点と800点。20点の差がつきます。この20点を学力検査の側で埋めようとすると、700点満点のうちの20点ですから、1教科あたりに直すと小さくはありません。ESAT-Jを「英語のついでのテスト」と扱わず、一つの教科に近い重さで見ておくほうが、得点の設計としては素直です。
10:0の学校をどう見るか
北園高校と武蔵野北高校のように、7:3と10:0の両方を計算して高い方を採る学校は、受験生にとっては「二つの計算のうち有利なほうが使われる」という意味になります。調査書点が高ければ7:3の計算で拾われ、学力検査が高ければ10:0の計算で拾われる。どちらか一方が極端に低い場合でも、もう一方でカバーできる余地がある、ということです。
ただし、これは「どちらも低くても大丈夫」という意味ではありません。両方の計算のうち高い方が使われるだけで、低い側の数字が消えるわけではないからです。7:3の学校を受けるつもりで調査書点を積み上げ、同時に学力検査の得点も伸ばす。基本の構えはどの学校でも同じだと考えておくのが安全です。
換算内申は65点満点
調査書点のもとになるのが換算内申です。都立の一般入試では、学力検査を実施する5教科(国語・数学・英語・社会・理科)の評定を1倍、実施しない4教科(音楽・美術・保健体育・技術家庭)の評定を2倍して合計します。5教科×5段階=25点、4教科×5段階×2=40点で、合計65点満点です(都教委の公表資料より)。
ここで大事なのは、実技4教科の1点が、5教科の1点の2倍の重さを持つということです。通知表で「3」が並んでいても、それが音楽や美術なら換算では6点分になります。5教科の「3」は3点分。同じ「3」でも価値が違う。この非対称を知らずに「主要5教科だけ頑張ればいい」と考えると、換算内申は伸びません。
計算を1回、具体の数で見ておきます。5教科の評定がすべて3、実技4教科の評定もすべて3だとします。5教科は3×5=15点。実技4教科は3×4×2=24点。合計39点です。ここから実技4教科をすべて4に上げると、4×4×2=32点で、合計は15+32=47点。実技4教科を1段階上げるだけで8点増えます。5教科を1段階上げると5点増える計算ですから、実技の伸び幅のほうが大きいことがわかります。
7:3の学校なら、調査書300点は換算内申65点を300点に拡大したものと考えられます。換算内申が1点違えば、調査書点では約4.6点の差になります。この差を学力検査700点の側で埋めるには、1教科あたりで見ると相応の得点が必要です。だからこそ、実技4教科の評定を落とさないことが、得点の土台になります。
換算内申の計算で、間違えやすいところ
計算そのものは足し算と掛け算だけです。それでも、ご家庭で計算してもらうと、同じ間違いがよく出ます。
一つ目は、実技4教科の評定を2倍し忘れることです。5教科と4教科をそのまま足して「41点でした」と言われることがあります。5教科15点+実技4教科12点で27点、これに実技の分をもう一度足して39点、というのが正しい計算です。手順としては、5教科の合計を出し、実技4教科の合計を出し、実技の合計を2倍して足す。この3段階で書くと間違えにくくなります。
二つ目は、評定の対象になる学期を取り違えることです。どの学期の評定が使われるかは、中学校から示される通知表の形によって変わります。調査書の評定がいつの成績で作られるかは、在籍する中学校の説明に従ってください。ここは塾の側で決められる話ではないので、三者面談や学年集会の資料を保管しておくことが大切です。
三つ目は、5教科と実技4教科の区分を、自分の感覚で分けてしまうことです。音楽・美術・保健体育・技術家庭の4つが実技側です。国語・数学・英語・社会・理科が5教科側。この区分は実施要綱に書かれているとおりで、学校によって入れ替わるものではありません。
換算内申を上げる動きは、学期ごとに違う
換算内申は、定期考査の点数だけで決まるものではありません。通知表の評定は、観点別評価をまとめたものですから、提出物、授業中の取り組み、小テスト、実技教科なら作品や実技の記録が合わさって決まります。だから「テストの点が良かったから評定も上がるはず」と決めつけず、学期ごとにやることを分けて考えると動きやすくなります。
1学期は、提出物の出し方を固める学期です。5教科も実技4教科も、最初の提出物が評価の土台になります。期限の前日にまとめてやるのではなく、出された日に何をいつ出すかを決めてしまう。この習慣がつくと、2学期以降の評定が安定します。
2学期は、定期考査と実技の記録が重なる学期です。実技4教科は、作品や実技の記録が評価に直結します。音楽なら歌唱や器楽の記録、美術なら作品、保健体育なら実技の記録、技術家庭なら製作。授業の中で記録が取られる日を、お子さま自身が把握しておく必要があります。ここは5教科のテスト勉強とは別の準備が要る部分です。
3学期は、最後の評定が決まる学期です。3年生のこの時期は、受験勉強と学校の課題が重なります。実技4教科の評定を落とさないためにも、作品や提出物の締め切りをカレンダーに書き出しておくと、勉強の計画とぶつかりません。
学力検査は5教科、ただし学校によって中身が違う
学力検査は国語・数学・英語・社会・理科の5教科です。ただし、一部の学校・学科は自校作成問題を使ったり、傾斜配点を設けたりしています。自校作成校の一覧は都教委が公表しています。共通問題で受けるのか自校作成問題で受けるのかは、志望校によって変わります。同じ「都立の学力検査」でも、対策の中身は学校ごとに違うと考えておくのが安全です。
参考として、令和7年度(2025年2月実施)の学力検査の平均点を見ておきます。都教委が公表した共通問題受検者(約31,000〜35,000人)の平均は、国語75.0点・数学60.4点・英語63.7点・社会59.9点・理科59.2点でした。前年度は国語75.9点・数学61.7点・英語66.9点・社会55.5点・理科66.8点です(都教委の公表資料より)。
年度によって教科ごとの平均は動きます。国語は2年続けて75点台で高止まり、理科は前年度66.8点から59.2点へ大きく下がりました。平均点が動くということは、同じ素点でも全体の中での位置は年度によって変わるということです。過去問を解くときも、年度ごとの平均点を横に置いて見ると、自分の得点の意味が読みやすくなります。
平均点の数字を、どう使うか
平均点は「今年のテストが難しかったか易しかったか」を示す数字です。令和7年度でいえば、理科が前年度より7.6点下がり、社会は4.4点上がりました。同じ勉強量でも、教科によって手応えが変わった年だった、と読めます。
過去問を解いたときに見るべきは、自分の素点そのものより、平均点との差です。たとえば理科で65点を取ったとします。平均が59.2点の年なら平均より上、平均が66.8点の年なら平均より下です。素点は同じ65点でも、意味は逆になります。年度ごとの平均点を並べておくと、この読み替えができます。
ただし、平均点はあくまで全体の真ん中あたりの数字です。志望校の合否を決めるのは、その学校を受けた受験生の中での位置です。平均点は参考の数字として使い、志望校の対策は志望校の出題に合わせる。この二つを混ぜないことが大切です。
自校作成問題と傾斜配点は、志望校の欄で確かめる
共通問題か自校作成問題かで、対策の組み立ては変わります。自校作成問題は、学校が独自に作る問題ですから、出題の傾向も学校ごとに違います。過去問を手に入れて、まずは時間を測らずに一度通して解き、どこで時間が足りなくなるかを見る。そこから対策の順番を決めるのが現実的です。
傾斜配点は、特定の教科の得点を重く扱う方式です。どの教科を重くするかは学校・学科ごとに違いますから、実施要綱と都教委の公表資料で確かめてください。英語を重く扱う学科なら英語の1点の重みが増し、数学を重く扱う学科なら数学の1点が増す。同じ得点でも、教科の組み合わせで結果が変わる仕組みです。
今月やることに落とす
ここまでの仕組みを、ご家庭で今月動ける形に落とします。
第一に、志望校の比率を確認することです。7:3なのか、7:3と10:0の高い方なのか、6:4なのか。学校によって違います。実施要綱と都教委の公表資料で確かめられます。
第二に、換算内申を自分で計算してみることです。通知表の評定を5教科と実技4教科に分け、実技は2倍して足す。65点満点のうち今どこにいるのかを数字で持っておくと、三者面談の話が具体的になります。台所で通知表を開いて、お子さまと一緒に電卓を叩く。地味ですが、この作業が一番効きます。
第三に、ESAT-Jの評価を確認することです。AからFまでの6段階で、最大20点の差がつきます。すでに受検した回の結果が手元にあるなら、それが何点分になるのかを計算に入れておきましょう。
第四に、日程を家族の予定として共有することです。推薦の出願は1月8日から、一般の出願は1月29日から。出願はインターネット経由です。年末年始に「いつ何をするか」を一度話しておくと、1月に慌てずに済みます。
中学1・2年生のご家庭が今できること
ここまでの話は3年生の話に見えますが、換算内申は1年生の評定から積み上がっていきます。1・2年生のご家庭は、今の学期の評定を計算しておくだけでも意味があります。65点満点のうち今どこにいるのかを知っておくと、3年生になってから「実技4教科が足りない」と気づく事態を避けられます。
1年生は、実技4教科の授業の受け方を知る学年です。作品や実技の記録がどう評価されるかを、最初の学期に把握しておくと、2年生以降の動きが変わります。2年生は、5教科と実技4教科のバランスを見直す学年です。5教科の評定が伸びても実技が下がれば、換算内申は思ったほど増えません。通知表が返ってきたら、5教科と実技4教科を別々に集計して、どちらが伸びてどちらが止まっているかを見る。この一手間が、3年生になってからの焦りを減らします。
よくある誤解を三つ
最後に、ご家庭でよく出る誤解を三つ挙げておきます。
一つ目は、「実技4教科は内申に関係ない」という誤解です。関係がないどころか、実技4教科は2倍で効きます。5教科と同じ重さではなく、5教科より重い場面がある。ここを取り違えると、換算内申の計算が根本からずれます。
二つ目は、「ESAT-Jは英語の内申の一部」という誤解です。ESAT-Jの結果は、調査書点とは別枠で加算されます。英語の評定が調査書点に入り、ESAT-Jの評価が20点の上乗せとして入る。二重に数えられているのではなく、別の場所に足されている、という理解が正しい形です。
三つ目は、「推薦で落ちたら一般は不利になる」という誤解です。推薦の結果と一般の選抜は、それぞれの基準で行われます。推薦で残念な結果になっても、一般の出願は間に合う日程です。気持ちの切り替えは大変ですが、制度の上で不利になるわけではありません。
仕組みを知ると、焦り方が変わる
入試の仕組みを知る目的は、点数を保証することではありません。何がどう決まるのかを知ると、どこに力を入れるべきかが見え、焦り方が変わる。実技4教科の評定が2倍で効くなら、そこを落とさない。ESAT-Jが20点の上乗せなら、その対策を軽く見ない。比率が学校ごとに違うなら、志望校の数字を先に確かめる。やることは、案外はっきりしています。
当塾では、入塾前のカウンセリングで、お子さまの通知表と志望校の比率を並べて、換算内申と学力検査のどちらに余力があるかを一緒に確かめています。武蔵境から通うご家庭の、最初の地図づくりに使っていただければと思います。