都立高校の学力検査の傾向(理科・社会)と自校作成問題

理科と社会は、ほぼ全員が同じ問題を解く

三者面談の前の廊下で、保護者の方から「理科と社会は学校ごとに問題が違うんですよね」と聞かれたことがあります。武蔵境の教室でも、この誤解はよく出てきます。答えは「いいえ、理科と社会は共通問題です」。都立高校の学力検査は国語・数学・英語・社会・理科の5教科で、このうち自校で問題を作る高校があるのは国語・数学・英語の3教科に限られます(都教委の公表資料より)。理科と社会は、どの高校を受けるお子さまも同じ問題を解きます。

この違いは、対策の組み立て方を大きく変えます。国語・数学・英語は、志望校が自校作成校かどうかで当日の問題が変わる可能性があります。理科と社会は、まず共通問題を固めることが全員の出発点になる。ここを混同したまま勉強を始めると、理科・社会にまで難問対策の時間を割いてしまい、国数英の土台が薄いまま2月を迎える、という順序の崩れが起きます。

この記事では、都立入試の理科・社会がどんな構成で出題されるのか、自校作成問題とは何を指すのか、そして学力検査の点数が合否にどう効くのかを、公表されている事実の範囲で整理します。

学力検査の点数は、1000点満点のどこに収まるか

理科・社会の対策を考える前に、その点数が全体のどこに位置するのかを押さえておきます。

一般入試(第一次募集・分割前期)では、学力検査の得点と調査書点の合計が1000点満点です。比率が7:3の学校なら、学力検査が700点、調査書が300点。ここにESAT-Jの結果(A20・B16・C12・D8・E4・F0点)が加わり、1020点満点になります(都教委の公表資料より)。

学力検査700点は5教科に配分されるので、1教科あたり平均140点。理科も社会も、この140点の枠を分け合う1教科です。国語・数学・英語に比べて配点が軽いわけではありません。5教科が同じ重みで並んでいるからこそ、理科・社会の取りこぼしは、そのまま合計点の取りこぼしになります。

調査書点300点の側は、換算内申で決まります。学力検査を実施する5教科の評定を1倍、実施しない4教科(音楽・美術・保健体育・技術家庭)の評定を2倍にして、65点満点。この65点を300点に膨らませて使う仕組みです。実技4教科の評定が2倍される点は、理科・社会の勉強時間を削ってでも意識したいところではありますが、それは内申の話。学力検査の理科・社会は、当日の1点を積む話です。両方を同じ机の上で考えないようにします。

なお、一部の学校は7:3と10:0(学力検査のみ1000点)の両方を計算し、高い方を使います。令和9年度にこの方式の対象として公表されたのは北園高校と武蔵野北高校です(都教委の公表資料より)。武蔵野市・三鷹市から通える範囲の高校が名を連ねているので、志望校になり得るご家庭は制度の側も確認しておくとよいでしょう。

第二次募集では、6:4と10:0の両方を計算して高い方を使う方式です(都教委の公表資料より)。第一次募集で決まらなかった場合に開かれる枠ですが、比率の考え方は第一次募集とは違います。ここも「7:3がすべての基本」と覚えてしまうと取り違えるところなので、制度を確認するときは募集の区分ごとに見るようにします。

令和7年度の平均点が示すもの

理科・社会の難しさを測る材料として、都教委が公表した学力検査の平均点を見ます。令和7年度(2025年2月実施、共通問題の受検者は約31,000〜35,000人)は、国語75.0・数学60.4・英語63.7・社会59.9・理科59.2でした。前年度は国語75.9・数学61.7・英語66.9・社会55.5・理科66.8です(都教委の公表資料より)。

この2年を並べると、理科の振れ幅が目につきます。前年度66.8から令和7年度59.2へ、7点を超える下落です。社会も55.5から59.9へ上がっており、理科と社会は年度による上下が大きい教科だと言えます。国語は75点台でほぼ動かず、数学は60点台前半で安定している。この差は、理科・社会の問題が単元の偏りや資料の読み取りの分量に左右されやすいことの表れだと読めます。

平均点が下がった年度は、受験生全体が同じように点を落としています。だからといって「自分も落としてよい」ということにはなりません。平均点は合否の線を決めるものではなく、その年度の問題がどれくらい解きにくかったかを示す目安です。理科・社会は、前の年度の感覚のまま臨むと足元をすくわれる教科だと心得ておくのが安全です。

ここでよくある誤解を1つ訂正しておきます。「平均点が低い教科は、難しいから対策しても点が伸びない」という受け取り方です。平均点は、その年度の問題と受検者全体の出来の結果であって、対策の効き具合を示す数字ではありません。理科が59.2だった年度でも、4分野を満遍なく通し、実験の説明を言葉にできたお子さまは点を取っています。平均点は「今年は難しかった」という事後の報告です。勉強を始める前の判断材料にはなりません。

もう1つ、「平均点が高い教科は簡単だから後回しでよい」という受け取り方も危うい。国語が75点台で安定しているのは、記述の配点や部分点の入り方が年度で大きく変わらないからで、だからといって何もしなくても点が取れるわけではありません。平均点の数字は、教科ごとの対策の優先順位を決める道具ではなく、前年度との差を見て「この教科は年度で動く」と知るための道具です。

理科の出題の型

近年の公表問題では、理科は4分野(物理・化学・生物・地学)からの小問集合と、実験・観察を題材にした大問で構成されています(都教委の公表資料より)。

小問集合は、4分野から満遍なく出る形です。ここで差がつくのは、得意分野だけを深くやって苦手分野を空けたままにする受け方です。小問集合は1問の配点が大きくないぶん、苦手分野を1つ捨てると数問を落とします。4分野を均等に、浅くてもよいので全部通しておく。これが理科の基本線になります。

大問は実験・観察が題材です。器具の使い方、結果の表やグラフの読み取り、そこから法則や性質を導く流れが問われます。暗記した用語を書くだけでは足りず、実験の手順を追って「なぜそうなるか」を説明する力が要ります。学校の授業で実験を見た記憶を、言葉で説明できる状態に変えておく。武蔵境の教室では、理科のノートを開いて「この実験、何を確かめるためにやったの?」と聞くところから始めることが多いです。答えられない単元は、用語だけ覚えて中身が入っていない単元です。

4分野の性格はそれぞれ違います。物理は計算とグラフ、化学は反応の仕組みと質量の関係、生物は観察と用語の整理、地学は図と資料の読み取り。同じ「理科」でも、必要な作業が分野ごとに入れ替わります。だから「理科が苦手」とひとくくりにせず、4分野のどれが詰まっているのかを分けて見る。これが小問集合の取りこぼしを減らす近道です。

実験・観察の大問でよくあるつまずきは、結果の表を読む段階で止まってしまうことです。表の数値は写せても、そこから何が言えるかの一文が出てこない。日ごろから「この結果から言えることは?」と自分に問いかける練習を、学校の実験ノートや教科書の図で積んでおくと、当日の記述で手が止まりにくくなります。

社会の出題の型

社会は、地理・歴史・公民の3分野と、地図・統計・資料の読み取りで構成されています(都教委の公表資料より)。

3分野が満遍なく出る点は理科と同じですが、社会の特徴は資料の読み取りが分野をまたいで出ることにあります。地理なら地図と統計、歴史なら年表と史料、公民ならグラフと条文。どの分野でも、知識を単独で問うのではなく、資料と結びつけて判断させる形です。用語を覚えているだけでは点にならず、資料から何が読み取れるかを言葉にする練習が要ります。

社会は平均点の上下が理科より緩やかですが、令和7年度は59.9と60点をわずかに下回りました。3分野のうち1つが手薄だと、資料問題で連鎖的に落とします。地理が苦手なお子さまは地図と統計でつまずき、歴史が苦手なら年表の並べ替えで落とす。分野ごとの穴を塞ぐことが、そのまま資料問題の得点につながります。

3分野の対策は、順番を決めて回すと進みます。地理は地図と統計の読み取りを毎回1問、歴史は年表の流れと史料の読み取りを1問、公民はグラフと条文を1問。1日に3分野を少しずつ触れる形にすると、1分野を長時間やるより穴が残りにくくなります。定期考査の前だけ公民を詰める、といった偏り方は、資料問題が分野をまたぐ社会では実を結びにくい。

資料の読み取りで差がつくのは、資料に書かれていないことを補って答えてしまう受け方です。グラフの数値は読めているのに、そこから言える範囲を超えた結論を書いて減点される。資料問題は「資料が示していること」と「そこから推測できること」を分けて書く。この区別を意識するだけで、記述の精度が変わります。

自校作成問題は国語・数学・英語の3教科

自校作成問題とは、一部の高校が国語・数学・英語の3教科について自校で問題を作る制度です(都教委の公表資料より)。理科・社会は共通問題のままです。どの高校が自校作成問題を出しているかの一覧は、都教委が公表しています。志望校が該当するかどうかは、その一覧で確かめてください。

ここで注意したいのは、自校作成校を目指す場合でも、理科・社会の対策は共通問題の対策だということです。国数英に自校作成の対策時間を割くぶん、理科・社会が後回しになりやすい。しかし理科・社会も学力検査700点のうちの2教科分を占めます。国数英の難問に時間を取られて理科・社会が59点台に沈むと、合計点では痛い目に遭います。自校作成校を目指すご家庭ほど、理科・社会を「共通問題で確実に取る2教科」と位置づけて、演習の量を落とさないことが大切です。

また、一部の学校・学科には傾斜配点があります(都教委の公表資料より)。特定の教科の配点が重くなる方式で、理科や社会が重くなるのか、国数英が重くなるのかは学校・学科ごとに異なります。傾斜配点がある学校を志望するなら、どの教科が重いかを早めに確認して、勉強時間の配分を決めます。

自校作成問題について、もう1つ整理しておきます。「自校作成校に入るには、理科・社会も自校作成の対策が必要」という誤解です。自校で作るのは国語・数学・英語の3教科で、理科・社会は共通問題です。したがって、理科・社会については、自校作成校を目指すお子さまも、そうでないお子さまも、同じ共通問題の対策を積むことになります。対策の内容が変わるのは国数英の3教科だけです。

この区別は、勉強の順番にも効きます。国数英の自校作成対策は、共通問題の土台があってこそ上に積めます。理科・社会を共通問題で固めておけば、国数英の対策に時間を回しても合計点が崩れにくい。逆に、理科・社会を後回しにして国数英の難問だけを追うと、3教科で取った点を2教科で吐き出す形になりかねません。自校作成校を考えるご家庭ほど、5教科のうち2教科は共通問題で決まるという事実を、勉強時間の配分に反映させておきたいところです。

換算内申と学力検査、両方を1回だけ計算してみる

制度の理解は、具体的な数で1回計算すると定着します。ここでは仮に、5教科の評定がすべて3、実技4教科の評定もすべて3だったとします。

換算内申は、5教科の評定×1+4教科の評定×2で65点満点。5教科が3×5=15、4教科が3×4×2=24。合計39点です。これを300点満点の調査書点に直すと、39÷65×300=180点になります。

学力検査は700点満点。5教科の素点がすべて60点だったとすると、300点。これを700点に直すと、300÷500×700=420点です。学力検査420点+調査書180点=600点。ここにESAT-Jが加わります。仮にB判定の16点なら、合計616点。1020点満点のうちの616点、という位置になります。

この計算で見えてくるのは、学力検査の1点の重みです。素点で1点取れば、700点満点に直すと1.4点になります。理科で5点取れば7点。社会で5点取れば7点。換算内申を1点上げるのに、評定をどれだけ積むかを考えると、学力検査の5点のほうが動かしやすい場面は少なくありません。もちろん内申も疎かにはできませんが、理科・社会の演習を1問増やすことが、合計点を押し上げる近道になる場面は確かにあります。

計算の途中で出てくる数字の意味も、一度は確かめておきます。素点の合計500点を700点に直すとき、500で割って700を掛ける。これは5教科の素点を、学力検査の配点である700点の物差しに引き伸ばしている作業です。だから素点1点の差が、700点の物差しでは1.4点の差になる。理科の素点が5点違えば、700点の物差しでは7点違う。この倍率を頭に入れておくと、理科・社会の1問の重みが実感しやすくなります。

調査書点の側も同じように見ます。換算内申39点を300点に直すとき、65で割って300を掛ける。倍率はおよそ4.6倍です。換算内申が1点上がると、調査書点では約4.6点上がる計算になります。ただし換算内申を1点上げるには、評定を1つ上げる必要があり、それは定期考査と提出物と観点別評価の積み上げが要ります。学力検査の素点1点と換算内申1点では、動かすための手間が違う。この手間の差を踏まえて、理科・社会の演習と内申対策の時間を配分するのが現実的です。

もう1つ、計算で見落としやすいのはESAT-Jの点です。A20からF0まで、6段階で最大20点。1020点満点のうちの20点は、率にすると2%弱ですが、合計点が並ぶ層ではこの差が効きます。理科・社会の演習で素点を5点伸ばせば7点、ESAT-Jで1段階上がれば4点。どちらも合計点を押し上げる要素ですが、ESAT-Jは当日の学力検査とは別の試験です。理科・社会の勉強とESAT-Jの対策を、同じ2月の予定表に並べておく必要があります。

学期ごとに、理科・社会をどう動かすか

年間の見通しを持たずに理科・社会へ手をつけると、定期考査のたびに分野を往復して、どの分野も中途半端になりがちです。ここでは、学期ごとに何をするかを具体的に落とします。

1学期は、4分野・3分野の全体像を通す時期です。理科なら物理・化学・生物・地学の単元を、学校の進度に合わせて一通り触れる。社会なら地理・歴史・公民のうち、その学期に学校で進む分野を丁寧に追う。この時期に欲しいのは深さより広さです。苦手分野を早い段階で見つけておくと、2学期以降の配分が決めやすくなります。

2学期は、定期考査の答案を分野別に仕分ける時期です。1学期の中間・期末と2学期の中間で、理科・社会のどこを落としたかがはっきりしてきます。物理の計算で落としているのか、化学の質量の関係で落としているのか。地理の地図で落としているのか、歴史の年表で落としているのか。仕分けの結果を見て、3学期に向けた重点分野を1つか2つに絞ります。

3学期は、入試の型に合わせた演習に切り替える時期です。理科は4分野の小問集合と実験・観察の大問、社会は3分野と資料の読み取り。学校の定期考査とは問題の形が違うので、共通問題の型に慣れる演習を入れます。この時期に過去の公表問題を解いておくと、実験の説明や資料の読み取りで、自分がどこで言葉に詰まるかが見えます。

月ごとに見ると、動きはもっと細かくなります。4月から6月は学校の進度に合わせて単元を追い、7月から8月は1学期に浅く通した分野のうち、苦手がはっきりしているところを戻す。9月から11月は定期考査の答案の仕分けと重点分野の絞り込み、12月から1月は共通問題の型に合わせた演習、2月は直前の確認。この流れを頭に入れておくと、定期考査のたびに「理科・社会は何をやるんだっけ」と迷う時間が減ります。

受験生のお子さまで、理科・社会が後回しになっている場合は、夏までに4分野・3分野を一通り通しておくことを目安にします。秋以降は国数英の対策に時間が寄りやすく、理科・社会に新しい分野を開く余裕は減っていきます。夏のうちに全体像を通しておけば、秋以降は仕分けと演習に時間を使えます。

保護者の方ができることは、答案の仕分けを一緒にやることです。お子さま一人だと、点数だけを見て「理科が悪い」で終わりがちです。分野別に仕分けると、「物理は取れているが化学で落としている」のように、次にやることが具体的になります。台所で通知表を開いたときに、評定の数字だけでなく、理科・社会の答案のどこで落としたかまで話せると、学期ごとの動きが決めやすくなります。

今月やること

理科・社会の対策は、特別な教材をそろえることから始まりません。まず、直近の定期考査や模試の理科・社会の答案を開いて、落とした問題を分野別に仕分けます。物理・化学・生物・地学、地理・歴史・公民。どの分野に穴があるかを目で見える形にする。これが最初の一歩です。

次に、実験・観察と資料の読み取りを、言葉で説明する練習を入れます。理科なら実験の目的と結果、社会なら資料から読み取れること。用語の暗記と並行して、この説明の練習を週に少しずつ積む。自校作成校を目指すご家庭も、理科・社会は共通問題の対策として、この積み上げを崩さないことです。

今月の予定に落とすなら、答案の仕分けに1回、説明の練習に週1回、共通問題の型に触れる演習に1回。この3つを並べるだけでも、理科・社会は動き始めます。志望校が自校作成校かどうかは、都教委が公表している一覧で確かめて、国数英の対策時間との配分を決めます。

当塾では、入塾前にカウンセリングの時間を設けています。答案の仕分けを一緒にやりながら、理科・社会のどこから手をつけるかを決める場として使ってください。

まとめ